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協働ロボットが止まったとき、誰が切り分けるのか。

故障・エラー・安全停止の切り分けから、保証と SIer の"隙間"、日本の保守体制まで。事実で並べます。

協働ロボットは、止まります。問題は「止まったとき、何が原因で、誰が直すのか」がはっきりしないことです。ロボット本体は正常でも、グリッパ・ビジョン・架台・制御が別ベンダーなら、連携で止まったときの切り分けは誰の担当でもない"隙間"に落ちます。当社は買い手側の立場で、公式マニュアル・査読論文・行政資料から集めた事実で、切り分けの筋道と、責任の構造を並べます。数値は観測時点 2026 年 7 月のもの。

1. まず切り分ける — 機械・電気・ソフト・環境

故障は、部位で傾向があります。査読レビュー(Sensors 2025, 25(6):1716)では、サーボモータ・RV 減速機・関節ベアリングが最も故障しやすく、実環境では複合故障が最多で時間とともに他部品へ連鎖します。減速機の歯面摩耗はバックラッシュ・位置決め誤差に、ベアリングの潤滑不良は振動に現れます。

厄介なのは、ロボット内蔵のセンサはソフト・電気系の故障は検知できても、ベアリングや歯車の摩耗といった機械故障の検知は有効でないこと(PHM Society 2021)。だから振動・電流・温度の外部モニタリングが要ります。

表A:リセット可否による一次仕分け(FAIRINO マニュアルの分類)

故障の種類リセット可否意味見るところ
衝突(4)resettableリセットで復帰。ソフト/一過性の系統。外力・経路・閾値を確認
ソフトリミット超過(3)resettableリセットで復帰。教示・座標系の設定に起因することが多い。教示点・座標系を確認
特異姿勢(10)resettableリセットで復帰。姿勢・経路の問題。経路を再教示
ドライブ故障(2)not resettable再起動・修理が要る。ハード/電気の系統。過電流・過熱・負荷を確認
スレーブオフライン(5・6)not resettable再起動・修理が要る。通信の系統。ハーネス・接続を確認
ドライブ通信エラー(11)not resettable再起動・修理が要る。通信の系統。EtherCAT・配線を確認

エラーコードは、リセットできるかどうかで一次仕分けできます。FAIRINO のマニュアルは各故障コードに resettable / not resettable を明記しています。衝突・ソフトリミット超過は resettable(リセットで復帰=ソフト/一過性)、ドライブ故障・スレーブオフライン・ドライブ通信エラーは not resettable(再起動・修理=ハード/通信)。この切り分けだけで「自分で直せるか、呼ぶべきか」の初手が決まります(manual.fairino.support)。

2. エラーコードの読み方

各社ともコード体系は異なりますが、構造は共通しています。サブシステム別に分類し、各項に原因と対処を紐づける形です。

メーカーコード体系代表例備考
Universal RobotsC<番号>A<副番号>C4=通信/C200=Safety Control Board ハード/C283=安全システム(力・速度・停止の違反を集約)各コードに原因+順序付き対処が内蔵
FANUC CRXSRVO-<番号>SRVO-050=Collision Detect(衝突検知)でパワーオフ停止マニュアルは「不要なパワーオフ停止は原因除去を」と記す
DOBOT(CR)ErrorID,{…},コマンド;GetErrorID() の末尾 6 要素が 6 軸サーボ各アラーム。衝突検知値 =−2・セーフスキン衝突 =−3ClearError() で解除、不能時は制御盤再起動
FAIRINO主故障コード 13 分類1 コマンド点/2 ドライブ/3 ソフトリミット/4 衝突/5-6 スレーブ/7 IO/8 グリッパ/9 ファイル/10 特異姿勢/11 ドライブ通信/12 外部軸/13 パラメータ各項に resettable / not resettable を明記

Universal Robots の C283 は安全システムの違反を集約するコードで、A26 は「力制限:センサノイズや外部制御のジッタで軌道が jerky になると発生」、A41/A42 は「TCP 速度が停止時間・距離の限界を超過」、A9〜A15 は「非常停止/セーフガード停止の 2 入力不一致=誤配線」を指します(universal-robots.com)。

診断の実務では、アラームコードと発生源を取得し、リセット可否で機械/電気/ソフトを一次仕分けしたうえで、原因系統を絞り込みます。FAIRINO のサーボ故障表では、過電流・位置偏差は負荷と抵抗の異常確認、過電圧は速度・加速度の低下、過熱・過負荷は負荷と速度の低下、Hall・動力線・EtherCAT はハーネスの短絡/断線確認、エンコーダは原点再校正——と対処が系統別に分かれます。そのうえで電圧・電流・速度・トルク・振動を周波数解析し、代替部品での単体切り分けに進みます。

出典:Universal Robots エラーコード目録/FANUC CRX マニュアル/DOBOT CR プロトコル/FAIRINO マニュアル附録(SSOT §2・§3)

3. 安全停止は「故障」ではない

協働ロボットの「止まった」の多くは、故障ではなく安全停止です。停止語には別があります——保護停止/セーフガード停止/非常停止(Protective stop / Safeguard stop / Emergency stop)。協働運転は 4 方式(安全定格監視停止・ハンドガイド・速度分離監視・力パワー制限)で成り立ちます(universal-robots.com)。

FANUC CRX の接触停止では、外力制限の既定 150N が上限です(150N より上げられない)。制限を下げると感度は上がりますが、動作次第で誤検知停止(nuisance 停止)が起こります。外力は各軸トルクから計算するため、軸の近くでの接触は制限を超えても止まらないことがあり、軸から遠い接触は小さい力でも止まります。協働動作速度は既定 250mm/s・最大 1000mm/s、身体部位別に許容速度が違い、顔・首は「接触不可」です(FANUC CRX マニュアル)。

保護停止が頻発して稼働率が落ちるのはよくある話です。固定経路や過度に保守的な速度・分離設定が不要な減速・停止を招く。緩和はリスクアセスメントで接触シナリオを精査し、閾値・分離距離を適正化することに依存します。

規格の統合(2025年)ISO 10218-2:2025 が ISO/TS 15066:2016 の協働ロボット要件の大半を本体に吸収しました(準静的/過渡的接触の定義を明記)。ANSI/A3 R15.06-2025 では「safety-rated monitored stop」が「monitored standstill」に改称されています。「協働ロボットだから柵不要」ではなく、リスクアセスメント/規格適合が前提です(iso.orgautomate.org)。

※ 協働ロボットの保護停止・誤検知停止の公表「頻度」(回/時・%)は、2026年7月時点で一次資料に到達できていません。本節では頻度を断定していません。ISO/TS 15066 附属書 A の身体部位別の力・圧力値も、二次報告を通じた数値のため本文では扱わず、附属書の参照にとどめます。

4. 稼働率の実態 — 止まるのは、たいてい本体ではない

400 工場超のデータを分析した研究(査読誌 International Journal of Performability Engineering)が示す事実は、買い手の直感と逆です。

指標内訳
ロボットセルの平均可用性88%12% は非稼働
セル停止のうち周辺起因80%コンベヤ・センサ・ガン等
セル停止のうちロボット起因20%うち 45% は位置ずれ(治具干渉・クラッシュ・摩耗)
平均故障間隔87 分約 1.5 時間ごとに何かで止まる
短時間復旧の割合80% の停止は 75% が 12 分以内大半は短時間の周辺起因

つまり「ロボットが壊れた」より「周辺・供給・治具のばらつきで止まる」方がずっと多い。セル停止の 80% はロボット本体ではなく周辺で、セルの平均可用性は 88%平均故障間隔は 87 分——約 1.5 時間ごとに何かで止まっている計算です(The Robot Report)。

日本の現場語のチョコ停——センサ汚れの誤検知、ワークの厚み・硬さ・バリのばらつき、油切れ——は短く記録に残らず、稼働率を静かに下げます(キーエンス)。だから切り分けの目は、本体より先に周辺と供給に向けるのが実務です。

5. ダウンタイムのコストと、復旧が遅くなる理由

Siemens の調査「The True Cost of Downtime 2024」(同社の予知保全製品 Senseye の調査による)では:

  • 突発停止の 1 時間コストは自動車で $2.3M/時、FMCG で $36,000/時
  • 1 施設あたり月 27 時間・年 326 時間を突発停止で喪失
  • 停止からの復旧が平均 49 分(2019)→ 81 分(2024)に悪化。要因は「熟練保全人材の喪失・スキルギャップ」「予備品調達の長期化」

復旧が遅くなっているのは、機械のせいより人と体制のせいです。社内に扱える人がいない、保守契約がない、部品が国内にない——ここで復旧時間が桁違いになります。

出典:Siemens「The True Cost of Downtime 2024」。金額・効果値はいずれも同社の公表値によるものです。

6. MTBFの数字を、そのまま信じない

メーカーは MTBF 40,000/60,000/80,000/100,000 時間を掲げます(「43 年壊れない」に達する主張も)。ですが公称値は全負荷・最高速度など理想条件が前提で、実際は工場全体・周辺機器込みで評価すべきものです。

Universal Robots は「全ペイロード・最高速度で最低 35,000 時間(≈連続 4.5 年)」を設計寿命とし、関節加速度が規定値(関節空間 800°/s²・直線 2500mm/s²)を超えると寿命が縮むと明記しています(universal-robots.com)。運用条件で寿命は変わる。カタログの MTBF は「壊れなさの上限の目安」であって、あなたの現場の値ではありません。

復旧時間(MTTR)も二峰性です。80% の停止は周辺起因で 75% が 12 分以内に復旧する一方、ロボット本体の破損(歯車・減速機・軸受)は少頻度でも修復が長く、最も高くつきます。

※ メーカー各社の一次資料による定量 MTBF(時間)とグリス交換周期は、2026年7月時点で確認できていません。上記の公称レンジは二次情報を通じた値です。

7. 責任分界の"隙間" — 誰の担当でもない不具合

トラブルで最も厄介なのは、技術ではなく責任の構造です。日本の主要メーカーの保証規定(安川電機が最も明示的)を読むと、隙間は保証の免責条項に構造的に埋め込まれています。

  • 一次故障診断は原則ユーザー側。メーカー代行はできますが、原因がメーカーの責でなければ有償。「どこが原因か」の切り分けそのものが、買い手の負担です。
  • 保証対象は自社製品の故障のみ。機会損失・周辺設備への物損・原因調査費用・ライン復旧の工事費や試運転費用は免責。
  • エンドエフェクタ・ワーク・周辺機器の安全性はメーカー保証外
  • ユーザー作成プログラム起因の動作不良、AI・マシンビジョン等の機能適合性起因の対応は有償扱い。

だから、本体×グリッパ×ビジョン×架台×制御が別ベンダーのとき、「本体は正常だが連携で止まる」ケースは、どのメーカー保証の外側にも落ちます安川電機 保証規定)。

統合した SIer の領域ですが、その SIer 契約が請負(完成義務あり)か準委任(善管注意義務・完成義務なし)かで、責任の質が変わります。2020 年の民法改正で「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」となり、起算点は「不具合発見時」になりました。準委任には契約不適合責任が適用されません。IPA の「情報システム・モデル取引・契約書」では、要件定義は準委任、実装は請負のように工程で類型が分かれます。どの工程の話かで、頼れる先が変わるのです(IPABUSINESS LAWYERS)。

この"隙間"を、関係各社に投げ返さず、切り分けて、直るまで進行を管理する——それが当社の引き受ける仕事です。

8. 日本の保守体制 — 部品と拠点が国内にあるか

復旧の速さは、部品在庫と修理拠点が国内にあるかで決まります。Universal Robots は従来、モジュール交換で対応できない故障をデンマーク本社へ送り、往復含め約 4 週間かかっていました。2025 年 6 月に九州のサービスハブと関東の部品倉庫を稼働させ、国内修理約 1 週間に短縮しています(同社会見)。輸入機を選ぶときは、この体制を確認する意味があります。

表B:日本のサポート体制の三層

担う範囲一次資料の記述
メーカー本体・制御・純正部品の保証に限定安川電機は「試運転調整オーダーのない標準品は搬入をもって引渡し、現地試運転調整は当社の責務外」と明記
正規代理店・販社機種選定・導入前相談・一次窓口FAIRINO 正規代理店の永山は「販売・導入相談は当社、本格的なシステム構築は SIer パートナーと連携」と記す
SIer工程全体を設計し本体・周辺・プログラムを統合「本体は買える、統合は別」という構造が、隙間の源泉

中国系メーカーも日本法人・代理店網が整いつつあります。DOBOT は TechShare が日本正規代理店で国内回収・部品交換に対応、FAIRINO は MISUMI EC と永山・安藤・湊ハマ等が正規代理店、ROKAE は日本法人「ROKAE 精機」があり 2024 年 11 月 1 日に IDEC ファクトリーソリューションズと販売代理店契約を結んでいます。HUAYAN については、日本の正規代理店・国内修理拠点を一次資料で確認できていません。

保守契約は各社にあります。標準保証は安川電機で引渡し後 1 年、または工場出荷後 18 か月未満の早い方(潤滑油・電池・ベアリング・冷却ファン・電解コンデンサ等の消耗部品は対象外)。FANUC の年間保守契約は期間中の修理回数に制限がなく、修理作業費・交通費・部品費が契約内容に応じて無償になります。保守料金はメーカー各社とも見積依頼制で非公表です。

※ 販社・SIer の参考目安として「年間 15〜40 万円/台」「本体価格の 3〜5%/年」という水準が語られますが、これは二次情報であり、メーカー一次資料で確認できた値ではありません。実際の金額は見積で確認してください。

9. 法定点検を忘れない

協働ロボットにも、法令の点検・教育義務があります。

  • 柵・囲い(安衛則 150 条の 4):定格出力 80W 超で接触危険があれば柵等が必要。柵なし協働作業は、リスクアセスメントで危険なしと評価するか、ISO 10218-1/-2 適合の技術ファイル・適合宣言書がある場合に可能(平成 25 年 12 月 24 日 2 号通達)。
  • 特別教育(労安法 59 条 3 項):教示・検査業務に義務。80W 以下は「産業用ロボット」定義外ですが、実運用の協働ロボは 80W 超が多く「協働=特別教育不要」とは限りません
  • 教示前点検(安衛則 151 条):外部電線の被覆・外装損傷、マニプレータの作動異常、制動・非常停止機能を点検。

日常の予防保全も、一次資料に手順があります。Universal Robots の点検・保守計画では、アームはゼロ位置で電源を遮断してケーブル損傷を点検し、取付ボルトをトルクレンチで確認、各関節蓋の摩耗・亀裂を見る(蓋ねじ 0.4Nm ±0.05、圧縮空気による清掃は不可)。制御盤は端子の緩みと粉塵、フィルタ清掃、ファンの異音を確認し、日時のズレから CMOS 電池の残量低下を推定します。安全機能(非常停止・フリードライブ・安全設定)の機能試験は毎月、サービスセンタでの点検は半年ごとが推奨されています(universal-robots.com)。

機械故障は内蔵診断では捉えにくいため、計画保全(PPM)から条件基準保全(CBM)へ移し、振動・電流・温度の外部モニタリングで残存有効寿命を予測する流れがあります。FANUC の ZDT は減速機・トルク・サーボガン・グリース量・ネットワーク負荷を稼働中に監視し、同社の公表値では導入以来 1,300 時間超の突発停止を回避したとされます(fanucamerica.com)。Universal Robots にもクラウド接続の UR Care、無償の myUR、Fleet Manager といった遠隔監視の枠組みがあります。

出典:厚生労働省パンフレット・通達/Universal Robots 点検保守計画/FANUC ZDT(SSOT §4・§9・§13)。ベンダー由来の効果値は各社の公表値によるものです。

参考文献

止まった原因が"隙間"に落ちていると感じたら、切り分けからご相談ください。

相談は無料。営業電話はしません、秘密厳守です。

技術判断に迷ったら。
まず、整理するところから。

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