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「これで安全」の根拠を、自分で持てるか

協働ロボットを初めて入れるとき、多くの会社が同じ壁に当たります。「安全に使いたい。でも、何をどこまでやれば“安全を確保した”と言えるのか、分からない」。

メーカーに頼めば、安全規格の適合証明書は出てきます。けれど、それを受け取っても不安は消えません。証明書は「ロボット本体が規格に適合している」ことを示すだけで、「あなたの現場で、あなたの工程で、安全か」には答えていないからです。本当に必要なのは、自社の使い方に即したリスクアセスメント(RA)——危険を洗い出し、対策し、「これに基づき安全を確保した」と言える根拠です。

※リスクアセスメント(RA)=どんな危険があるかを洗い出し、対策の妥当性を評価すること。

この記事は、初めて協働ロボットを入れるあなたが、安全の根拠を自分で持つための地図です。なぜメーカーの証明書だけでは足りないのか、RAでは何を見るのか、そして——ゼロから作らなくていい、国が用意した無料のひな形まで。読み終えたとき、安全をどう固めればいいかが、自分の言葉で分かります。

1. 結論:RAは、事故を防ぎ、かつ「根拠」を持つための営み

先に結論を言います。リスクアセスメントは、事故を防ぐためのものであると同時に、「これに基づいて安全を確保した」とあなたが言い切るための“根拠”をつくる営みです

協働ロボットは、安全柵なしで人のそばに置けるのが利点です。だからこそ、人と機械が同じ空間で動く——その前提で「どこに危険があり、どう抑えるか」を自分で見極め、記録しておく必要があります。万一のとき、「安全のために何を検討し、どう対策したか」を示せるかどうか。それが、RAをやったかどうかの差になります。

この記事では、RAを「やらされる書類仕事」でなく、あなたが安全の根拠を握るための作業として辿ります。

2. なぜ、メーカーの証明書だけでは足りないのか

協働ロボットを導入するとき、メーカーや輸入元からは、ロボット本体の安全規格適合を示す書類が手に入ります。ISO 10218-1への適合証明、ISO/TS 15066(人とロボットが触れたときの力・速度の要件)に基づく技術データなどです。

※ISO 10218-1=ロボットメーカー向けの安全規格。ISO/TS 15066=協働ロボットの接触時の力・速度等の要件(現在はISO 10218-2:2025に統合)。

これらは大切な土台です。けれど、これだけでは「あなたの現場で安全」とは言えません。証明書が保証するのは「ロボット本体」まで。あなたの工場で、どんな作業をさせ、人がどう近づき、周辺機器とどう組み合わせるか——その使い方ごとの安全は、証明書には含まれていないからです。

ここを取り違えると危険です。「メーカーが安全規格に適合していると言っているから安全」と思って運用を始めると、自社の使い方に潜む危険が抜け落ちます。だから、メーカーが用意した簡易な書式をそのまま使うのではなく、日本の法令と、自社の実際の使用環境に即してRAを構築する必要があります。証明書は出発点、RAが本体です

3. RAは、何を見る営みか

RAは、難しい理論ではありません。順を追えば、筋道で進められます。

まず、危険源を洗い出す。人とロボットが触れる可能性、はさまれ・巻き込まれ、ワークの落下、周辺機器との干渉——あなたの工程で「何が起こりうるか」を具体的に挙げます。協働ロボットで特に重要なのは、人がロボットの可動範囲に入る前提で考えること。柵がない分、接触のシナリオを丁寧に見ます。

次に、リスクを見積もる。洗い出した一つひとつについて、「ケガの重さ(重篤度)」「起こる可能性」「その作業の頻度」を見積もり、組み合わせてリスクの大きさを評価します。この見積もりには、後述する公的な評価基準の例が使えます。

そして、対策で下げる。リスクの大きいものから、対策を講じます。協働ロボットなら、速度や力を制限する、可動範囲を絞る、人が近づいたら止まる設定にする、といった手段です。対策後に残るリスク(残留リスク)が許容できる水準かを確かめて、記録する。

この「洗い出し→見積もり→対策→残留リスクの確認」が、RAの背骨です。そしてこの一連が、そのまま「安全を確保した根拠」の記録になります。

危険源の洗い出し
接触・はさまれ・落下・干渉
リスクの見積もり
重篤度 × 可能性 × 頻度
対策で下げる
速度・力の制限/可動範囲/停止
残留リスクの確認・記録
許容できる水準かを確かめ、残す
この一連が、そのまま「安全を確保した根拠」の記録になる。

4. RAに必要な技術データは、メーカーから取る

RAを進めるには、ロボット本体の特性データが要ります。とくに協働ロボットでは、各軸の停止時間・停止距離・衝突検知の特性——人が触れたとき、どれだけの距離・時間で止まるのか——が、接触リスクを見積もる土台になります。

これらは、ISO/TS 15066に基づく技術データとして、メーカーや輸入元が提供できる範囲です。多くは本体マニュアルや技術データシートに記載があります。「自社で測るもの」ではなく「メーカーから取り寄せるもの」——ここは製品側の情報なので、導入時に揃えておきます。

第3章のリスク見積もりに、第4章のデータを入力する。RAは、メーカーから取る情報(本体特性)と、自社で見る情報(工程・人の動き)を、合わせて組み立てる作業です。

メーカーから取る
停止時間・停止距離・衝突検知(本体特性)
自社で見る
工程・人の動き・周辺機器(使い方)
合わせてリスクを見積もる
本体特性 × 現場の使い方
RAは、メーカーの情報と自社の現場を、合わせて組み立てる。

5. ゼロから作らなくていい——国の無料ひな形という出発点

ここまで読んで「大変そうだ」と感じたかもしれません。けれど、ゼロからフォーマットを作る必要はありません。日本の公的機関が、そのまま実務に使えるガイドとひな形を無料で公開しています。初めての一社でも、これを土台にできます。

厚生労働省のパンフレット——安全柵なしで協働ロボットを運用するための条件が、イラスト付きで簡潔にまとまっています。全体像をつかむ最初の一枚に向いています。

「機能安全活用実践マニュアル ロボットシステム編」(中央労働災害防止協会・厚生労働省委託)——協働ロボットの導入を考える事業者向けに、規格と法令の概要、リスクアセスメント、パフォーマンスレベル、用語解説までを分かりやすくまとめた資料です。WordやExcel形式のアセスメントのひな形も提供されており、社内規定や稟議のテンプレートとしてそのまま使えます。

農林水産省「食品工場における協働ロボット運用時の安全性確保ガイドライン」——食品工場向けと銘打たれていますが、業種を問わず、協働ロボットのRA手法を最も分かりやすく解説した公的資料です。そのまま使えるRAシートの記入例・ひな形が手に入ります。(※同じ農水省に、HACCP対応の「衛生管理ガイドライン」が別にありますが、それは衛生管理の資料で、RAとは別物です。RAの参考にするのは「安全性確保ガイドライン」の方です。)

これらのリンクは、この記事末尾にまとめてあります。まず眺めてみる。それだけで、RAが「得体の知れない義務」から「手順のある作業」に変わります。

6. 法令という土台:柵なしで協働ロボットを動かす条件

なぜ協働ロボットは、安全柵なしで人のそばに置けるのか。ここには法令の土台があります。

もともと日本では、出力の大きい産業用ロボットには、労働安全衛生規則(150条の4等)に基づき安全柵や囲いが求められていました。しかし2013年12月の厚生労働省通達(基発1224第2号)により、ISO 10218-1/-2に準じた措置を講じ、リスクアセスメントを実施していれば、柵なしで人と協働させてよい、と整理されました。協働ロボットが普及した法的な背景がこれです。

重要なのは、柵なしの協働運転には条件があるということ。あらかじめ決められたタスクに限定すること、必要な保護方策が働いていること、協働作業用に設計されたロボットを使うこと、そしてリスクアセスメントを実施していること——これらが揃って、はじめて柵なしが認められます。つまりRAは、安全のためだけでなく、柵なしで合法的に動かすための前提でもあります。

※労働安全衛生規則150条の4=産業用ロボットの危険防止措置を定めた条文。

7. そして問い——RAを、自社で持つか、伴走を頼むか

ここまで「RAとは何を見る営みか」を辿ってきました。最後に、あなたが決めることがあります。このRAを、自社で構築するのか、誰かに伴走してもらうのか。

公的なひな形がある以上、自社で取り組むことは十分に可能です。社内に安全や生産技術の担当がいるなら、ひな形を土台に構築し、ノウハウを社内に残すのは良い選択です。一方、初めての導入で、何から手をつけるか見えないなら、RAの構築から立ち上げまでを伴走してもらう手もあります。どちらが正しいかは、自社にその力と時間があるかで決まります。

一つだけ言えるのは——RAを「誰も持たないまま」走り出すのが、最も危ないということ。安全の根拠が宙に浮いたまま運用が始まると、万一のとき、責任の所在まで曖昧になります。自社で持つにせよ、託すにせよ、「RAは誰が持つか」を最初に決める。それが、安全な導入の第一歩です。

(誰がどこまでの責任を持つかの全体像は、「AI・ロボットは『誰が、どこまでやるのか』で、つまずく」で整理しています。)

8. まとめ:安全とは、根拠を自分で持ち、現場ごとに解く営み

整理します。協働ロボットの安全は、三つの層で考えます。

技術の層——RAは「危険源の洗い出し→リスクの見積もり→対策→残留リスクの確認」。協働ロボットでは、人との接触を前提に、停止距離・停止時間などメーカーのデータを入力して見積もる。

構造の層——メーカーの証明書は本体まで。あなたの工程の安全は、自社の使用環境に即したRAで固める。公的な無料ひな形が出発点になり、柵なし運転にはRAが法的な前提でもある。

経営の層——その手前に「RAを誰が持つか」がある。自社で持つか、託すか。誰も持たないまま走らない。

この考え方を、私たちは隠しません。考え方も、使えるひな形も、すべて開示します。そのうえで——あなたの現場で、どの危険を、どう見積もり、どう下げるか。その最後の解は、数多くの現場を見てきた蓄積でしか出せず、ひな形だけでは埋まりません。その安全の地図を、必要なら一緒に描きます。

9. よくあるご質問

Q.メーカーの安全規格適合証明書があれば、安全は確保できていますか?
A.できていません。証明書が保証するのはロボット本体が規格に適合していることまでで、あなたの工程・使い方ごとの安全は含まれません。自社の使用環境に即したリスクアセスメントを別に行う必要があります。
Q.リスクアセスメントは、何から始めればいいですか?
A.危険源の洗い出しから始めます。人との接触、はさまれ、ワークの落下など、自社の工程で起こりうることを具体的に挙げ、それぞれのリスクの大きさを見積もって対策します。国が無料で公開しているひな形を土台にすると、ゼロから作らずに済みます。
Q.リスクアセスメントのひな形やテンプレートはありますか?
A.あります。厚生労働省の「機能安全活用実践マニュアル ロボットシステム編」(Word/Excelのひな形付き)や、農林水産省の「協働ロボット運用時の安全性確保ガイドライン」(RAシートの記入例付き)が無料で公開されています。記事末尾にリンクをまとめています。
Q.協働ロボットは、本当に安全柵なしで使っていいのですか?
A.条件を満たせば使えます。2013年の厚生労働省通達により、ISO 10218-1/-2に準じた措置を講じ、リスクアセスメントを実施していれば、柵なしで人と協働させることが認められています。RAの実施は、その前提条件の一つです。
Q.リスクアセスメントに必要なデータは、どこで手に入りますか?
A.ロボット本体の停止時間・停止距離・衝突検知の特性などは、メーカーや輸入元が提供する技術データ(ISO/TS 15066に基づくもの)から取得します。本体マニュアルや技術データシートに記載があることが多いので、導入時に揃えておきます。
Q.リスクアセスメントは、自社でやるべきですか、頼むべきですか?
A.自社にその力と時間があるかで決まります。公的なひな形があるので自社での構築は可能で、ノウハウが社内に残る利点があります。初めてで手がつけられない場合は伴走を頼む手もあります。大切なのは「誰が持つか」を最初に決め、誰も持たないまま走り出さないことです。
リスクアセスメントの公的資料(無料・外部サイト)

※公的資料のURLは変更される場合があります。リンク先が見つからない場合は、各省庁のサイトで資料名を検索してください。

「初めての協働ロボット導入で、安全の根拠をどう固めればいいのか」——ひな形を土台に、自社の現場に即したリスクアセスメントを組み立てたい方は、お気軽にご相談ください。

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