- 業種・規模
- 北海道の技術・開発系のご依頼主
- 現場のタイプ
- 高速移動体の遠隔操縦(研究開発)
- 抱えていた課題
- 高速・屋外での低遅延デジタル操縦の実現可否と、過大投資の回避
1. 何が起きていたか
時速40km(秒速約11m)で走るRCカーを、その場に乗っているような感覚で操縦したい、というご相談でした。条件は、操作と映像のズレ(遅延)を30ミリ秒以下に抑え、できれば手に入りやすい2.4GHzのデジタル無線で、屋外で走らせたい、というものでした。時速40kmでは、遅延30ミリ秒は約0.3m、100ミリ秒なら約1.1mの「画面を見ないまま進む距離」になります。遅延は、そのまま安全に関わります。
2. 何をしたか
まず、その条件が物理的に成り立つかを一つずつ調べました。映像のズレは、撮影・圧縮・送信・復元・表示の各段階で積み上がります。2.4GHzのデジタル無線は帯域が混み合い、映像を圧縮・復元して送るため、どうしても100ミリ秒を超えます。さらに、2.4GHzの映像と2.4GHzの操縦を同じ車体に積むと、強い映像電波が操縦の電波をかき消し、操縦不能になる危険があることも分かりました。要件を満たせる方式(5GHz帯の非圧縮伝送など)は、高額か、生産終了か、屋外では電波法の制約がありました。結論として、「屋外・高速・2.4GHzデジタルで30ミリ秒以下」を同時に満たすことは、今の技術と法律の両面で難しいと見極めました。
ここで、当初の条件に固執するのをやめ、ご依頼の本当の目的に立ち返りました。目的は「電波で動かし、自分で操縦し、乗っているような臨場感を、多くの人に体験してもらうこと」でした。すでに協力者の方が作っていた試作機を解析すると、ほぼ遅延を感じさせない理由は、映像を圧縮せずそのまま送る方式(WHDI)にあると分かりました。この試作機は屋内でなら、その臨場感をそのまま使えます。そこで、いきなり屋外・高速・製品化を目指すのをやめ、まず屋内で、この試作機を複数台に組み込んでレースを楽しめる形から始める、という進め方に組み替えました。
3. 何が変わったか
「屋外・高速」という最初の条件のままなら、高額な開発に踏み込んでも目的を達成できなかった可能性が高い状況でした。条件を満たせないと早い段階で見極めたことで、過大な投資を避けられました。そして「無理でした」で終わらせず、目的を達成できる形(屋内での体験)に組み替えたことで、臨場感そのものはすぐに共有できる状態になりました。屋外・製品化は、屋内で実績と資金を作ってから挑む後段の課題として、道筋だけを残しました。
4. この事例が示すこと
見極めには、「買うか・買わないか」だけでなく、「そもそも、その条件で実現できるのか」を物理から確かめる、という種類があります。そして、条件を満たせないと分かったときに大事なのは、「できませんでした」で止まらないことです。最初の条件は手段であって、目的ではありません。目的に立ち返れば、今ある手段で達成できる、別の形が見つかることがあります。
要件の可否を、物理から見極める
要件でなく、目的に立ち返って組み替える
この見極めの考え方は 人手不足をAI・ロボットで補うとき、何を選べばいいか で詳しく解説しています。